【判例紹介】離婚後のペットの飼育費用:家賃と餌代の負担割合を定めた判例

犬を飼っている夫婦が離婚をしたときに、将来の飼育費用の負担割合を定めた判例(福岡家庭裁判所久留米支部・令和2年9月24日判決)をご紹介します。

少し特殊な例になりますが、離婚問題でお悩みのペットを飼われている方は参考にできるかもしれません。

また、ペットを飼われていない方でも、この判決では、一方的な別居をして離婚原因を作った側からの離婚請求が認められた点、離婚原因を作ったことに対する慰謝料の支払いが認められた点についても参考になりますので、ぜひご一読ください。

事案の概要

  • 月4万5000円で戸建住宅を借りて、犬(ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、中型雑種犬の3頭)を飼育
  • 夫(原告)が家を出るかたちで別居開始
  • 犬は妻(被告)が賃貸住宅で飼育
  • 別居時の夫婦の共有財産は
    夫(原告):75万2168円
    妻(被告):
    -13万7039円
  • 婚姻から別居までの期間:約15年
  • 別居後も夫(原告)は家賃・餌代・水道光熱費等を負担
  • 別居開始から約6年後、夫(原告)が離婚訴訟を提起
    ※訴訟前の経緯は不明
  • 訴訟提起から約2年後、判決

双方の主張

夫(原告)の主張

夫(原告)

犬は財産分与の対象とならない。
餌代は今後も負担するほか、散歩等にも協力する。
妻(被告)は金銭感覚に問題があり、それが原因で同居に耐えれなくなり別居に至った。
妻(被告)の家賃や水道光熱費を支払っている(婚姻費用を負担している)ので慰謝料を支払う必要はない。

妻(被告)の主張

妻(被告)

夫(原告)は一方的に別居したことで、離婚原因を作出した有責配偶者にあたるため、離婚請求は認められない。※1・※2

【反訴】(離婚が認められた場合の予備的主張)
犬は、持分2分の1ずつの共有とし、扶養的財産分与(エサ代・獣医師代等)として月4万5000円の支払いを求める。
夫(原告)は一方的な別居によって、離婚をせざるを得なくなったことに対する慰謝料200万円の支払いを求める。
※その他(財産分与・年金分割)についての請求も行っていたようです。

※1【参考:最高裁判所第三小法廷・昭和27年2月19日判決

上告人(夫)が勝手に情婦を持ち、その為め最早被上告人(妻)とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人(妻)は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。道徳を守り、不徳義を許さないことが法の最重要な職分である。…前記民法の規定(民法第770条「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。…五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」)は相手方に有責行為のあることを要件とするものでないことは認めるけれども、さりとて前記の様な不徳義、得手勝手の請求を許すものではない

※2【参考:最高裁判所大法廷・昭和62年9月2日判決

有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。

判決内容(抜粋)

01 夫(原告)の離婚請求について

①別居に至った原因について

別居に至った原因として、被告が…収入に見合わない支出をした旨を主張するが、…原告の陳述書…尋問における供述…は、具体性を欠いており、領収書や支払明細等の裏付けとなる証拠もなく、…原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。また、…原告は、被告の普段の言葉づかいや態度を辛く感じ、愛情を失ったというのであるが、具体的にどのような言動が被告にあったかについては触れるところがなく、…そうすると、別居の原因が被告にあったとは認められず、原告は特に理由もなく別居を開始したものといわざるを得ない

②離婚請求に理由があるかについて

別居期間は既に8年を超えており、この点だけからみても原被告の婚姻は修復の見込みがなく、既に破綻しているといわざるを得ず、民法770条1項5号所定の婚姻を継続し難い重大な事由があるといえる。

 そして、被告は、原告は…有責配偶者に当たる旨主張するが、原告は、長期にわたる別居期間中、被告宅家賃や水道光熱費等を負担し続けており、経済的には被告を支援してきていることに鑑みると、…その離婚請求が信義則に反するものとまではいい難い
 したがって、原告の本訴離婚請求は理由があるというべきである。

02 妻(被告)の慰謝料請求について

…婚姻後15年以上にわたって共同生活を続けていたにもかかわらず、原告は、理由なく一方的に別居して婚姻を破綻させたもので、被告は、その意に反して離婚を強いられ、精神的苦痛を受けることになるものである。

 そうすると、原告は被告に対し離婚慰謝料を支払う義務を負うというべきであり、その額は200万円を下らないというべきである。なお、原告は、別居期間中、被告の婚姻費用を負担し続けたから慰謝料支払義務を負わない旨主張するが、婚姻費用分担義務は婚姻関係が存することによって当然に生じるもので、婚姻破綻についての責任の有無・程度と直接に関係するものではなく、原告は一方的に別居して婚姻を破綻させたものであることも考慮すると、原告が婚姻費用の負担を続けたことを理由に離婚慰謝料を減免するのは相当でないというべきである。  したがって、被告の反訴慰謝料請求は全部理由がある

03 財産分与(犬の持分割合)について

犬3頭については、…広い意味では夫婦共同の財産に当たるから、財産分与の一環としてこれらの帰属等を明確にしておくのが相当である。

 証拠によれば、原告が犬3頭を引き取ることは困難であることが認められるから、事実上、今後も被告が被告宅において飼育し続けざるを得ないものである。しかし、犬3頭の飼育のためには、被告宅を確保するため家賃を支払い続ける必要があるほか、3頭分の餌代その他の費用を負担する必要もあるところ、その全額を被告に負わせるのは公平を欠くというべきである。

 そこで、被告が主張するように、犬3頭についてはこれを原被告の共有と定め、民法253条1項※3により原被告が持分に応じて飼育費用を負担するものとしておくのが相当と考えられる。そして、原告は定職があり持家も有しているのに対し、被告は…無職であり、借家住まいであることに照らすと、持分割合は、原告2対被告1として、同割合で費用を負担するのが実質的な公平にかなうといえる。また、同条項には、…費用前払に関する規定はないが、犬3頭の飼育費用として、被告宅家賃の一部及び原告が支払中の餌代が今後も発生し続けることは明らかであるため、その3分の2については人事訴訟法32条2項※4により、原告に支払を命ずるのが相当である。

 被告宅の家賃月4万5000円のうち、少なくとも半分程度は被告自身の居住のための費用とみるべきであるから、飼育場所の確保のための費用に当たるのは月2万2500円程度とみられる。この費用は、1頭でも犬が飼育されている間は発生し続けるから、その間は、原告はその3分の2である月1万5000円を被告に支払うものとするのが相当である。また、…餌代は税込みで概ね月4000円余りで、1頭当たり月1400円弱と認められるから、その3分の2相当である1頭当たり月900円について原告は毎月被告に支払うものとしておくこととする。なお、…被告が上記支払額の定めを超える必要費を支出したときは、その3分の2について原告に償還を求めることは妨げられない。逆に、実際にかかる費用が上記の前提とした額を下回るようになったときには、原告は請求異議により支払額の減免を求めることができると解される。

※3【参考:民法253条1項】

各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。

※4【参考:人事訴訟法32条2項】

…裁判所は、…判決において、当事者に対し、…金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

04 財産分与(犬以外の部分)について

原告は、被告に対し、清算的財産分与として44万4603円(=(75万2168円-13万7039円)÷2-(-13万7039円)。1円未満切捨て。)を支払うものとするのが相当である。

※計算方法の詳細

【別居時の夫婦の共有財産の合計】
75万2168円(夫の財産)+(-13万7039円(妻の財産《負債》))=61万5129円

【共有財産の2分の1(それぞれの共有財産の取り分)】
61万5129円÷2=30万7564.5円

【共有財産の取り分と別居時に保有していた共有財産(金額が大きい方《夫》)の差額】
75万2168円-30万7564.5円=44万4603.5円→44万4603円(1円未満切捨て。)

判決内容(図解)

01 夫(原告)が負担する犬の飼育費用

判決文の引用で少し文字が多くなってしまったので、ここからは図と合わせて判決内容を確認していきましょう。夫(原告)が負担する費用は【家賃】と【エサ代】の2種類で、それぞれ別の方法で算定しています。

【ポイント】

 夫(原告)が負担する家賃は、犬の飼育場所確保に必要な部分の3分の2(家賃の3分の2ではない。)。

02 飼育する犬の数が減少したときの夫(原告)が負担する飼育費用

ペットを飼う以上、ペットの寿命と向き合わなければなりません。今回の判決では、ペットが亡くなったときの負担割合についても「飼育場所の確保のための…費用は、1頭でも犬が飼育されている間は発生し続ける」と示されています。

そのため、飼育している犬が1頭になった場合は、下図のように、夫(原告)が負担する犬の飼育費用の合計は判決時の【月1万7700円】から【月1万5900円】となります。

【ポイント】

 飼育数が3頭でも1頭でも、飼育場所にかかる費用は変わらない。

03 飼育する犬が病気になり費用が発生した場合など

判決文の「被告が上記支払額の定めを超える必要費を支出したときは、その3分の2について原告に償還を求めることは妨げられない。」についてもう少し分かりやすく解説します。 判決内で夫(原告)が明確に支払う必要があると示されたものは【家賃】と【エサ代】だけです。しかし、病気になったり、怪我をしてしまうとそのために治療費が発生します。そういったイレギュラーな支出が発生したときに、妻(被告)は、夫(原告)に対して、かかった費用の3分の2を請求できます。

ただ、かかった費用について何でもかんでも請求できるとは考えないほうが無難です。同じような取り決めをした場合でも、緊急の支出以外は事前協議をしたほうが、無用な言い争いが避けられるでしょう。

04 エサ代や家賃が減額した場合など

続いて、判決文の「実際にかかる費用が上記の前提とした額を下回るようになったときには、原告は請求異議により支払額の減免を求めることができると解される。」について解説します。

下図では、計算結果が分かりやすくなるよう大げさにしていますが、判決時点の犬の飼育費用【月2万6700円《家賃:2万2500円+エサ代:4200円》】よりも費用が下回った場合は、原告(夫)は、判決時点の犬の飼育費用から、実際の費用(下回った費用)を基に計算し直した原告(夫)の負担する飼育費用の差額について減額の請求ができます。 エサ代でなく、家賃について変更があっても同様です。

まとめ

今回は、裁判所がペットの持分割合を示した珍しい裁判例になります。持分割合を半分ずつにせず、2:1とされたことは、お互いの事情(夫には定職があり、妻は無職であること。ペットを飼っていることで現在の賃貸住宅から(家賃の安い住宅へ)引っ越しできないこと。など)が考慮された結果かと思いますので、持分割合についてはあまり参考にせず、ペットは法律上、「物」として扱われるため持分割合を決めて共有物にできるということを頭の片隅に置いていただければ十分です。 ペットは大切な家族の一員です。ペットを大切に思う気持ちは、離婚問題においても尊重されるべきです。ペットを飼われていて、離婚問題でお困りの方は、当事務所にお気軽に相談してください。

関連ページ

ペットの財産分与申立が却下された事例

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

 

トップへ戻る

電話番号リンク 問い合わせバナー ライン相談予約