前回の記事『【判例紹介】離婚後のペットの飼育費用:家賃と餌代の負担割合を定めた判例』では、ペットの財産分与について裁判所が持分割合を定めた判例をご紹介しました。他方で、ペットの財産分与の申立が却下された事例もありますので、ご紹介します。
ご自身がどの立場に近いのかが分かれば問題解決の糸口になるかもしれませんので、ペットの財産分与でお悩みの方は、ぜひ前回の記事と合わせてお読みください。
事案の概要
- 婚姻期間中に小型犬2頭(A及びB)を購入
- 妻が2頭とも連れて別居
- 別居から約2年後に犬の財産分与を除いて離婚調停が成立
- 離婚成立の翌年に夫から財産分与調停申立、不成立となり審判に移行
審判内容及び抗告審内容
審判内容
客観的な市場価値のない動産については清算分配することが困難であるから、財産分与における審判の対象から除外されるものと解される。
これを本件についてみるに、Aは10歳、Bは9歳のいわゆるシニア犬であり、当事者双方の主観的評価による価値はともかく、客観的な市場価値はないものと推認され、これを覆すに足りる資料も存在しない。そうすると、A及びBは、申立人及び相手方の離婚に伴う財産分与における審判の対象から除外されるところ、同人らの間では前件調停によりA及びBにかかる権利義務関係を除き、離婚に伴う権利義務関係が清算されていることから、本件申立ては却下を免れない
仮に、客観的な市場価値のないペットが離婚に伴う財産分与における審判の対象になる余地があるとしても、
1 A及びBは、申立人と相手方の同居期間中から現在に至るまで、
主として相手方によって飼育されてきたこと
2 2頭ともシニア犬である上、持病をもっていること
3 3年以上慣れ親しんだ現在の環境を変えて、先住犬がいる
申立人方に移転させることは、A及びBに過度の負担をかけるおそれがあること
4 申立人及び相手方は、共に日中は仕事のため外出するところ、
相手方においては飼育を補助する者として同居する実母がいること
などを考慮し、A及びBは相手方に分与するのが相当である。
抗告審内容
客観的な市場価値のない動産については財産分与の対象から除外されるものと解される。
仮に客観的な市場価値のないペットが離婚に伴う財産分与における審判の対象になる余地があるとしても,相手方が不適切な飼育方法をしていると認めるに足りる資料はなく,シニア犬であり持病を持っている2頭が3年半以上慣れ親しんだ現在の環境を変えて,抗告人方に移転させることを相当とするような事情は認められないことからすれば,A及びBは相手方に分与するのが相当である。
抗告審も審判を追認し、ペットについては財産分与の対象から除外されると判断されました。 夫から民事上の手続である共有物分割請求を起こしてくる可能性もありましたが、仮定的判断として「ペットは妻に分与するのが相当」とされていたこともあり、本件では抗告審で一段落がつきました。
ポイントとまとめ
一般的に、ペットのように実物を2つに分けることができないものの財産分与については、どちらか一方が引き取り、引き取る方が、現在の評価額の2分の1相当額を支払う方法をとります。しかし、市場において1歳以上のペットに評価額がつかない(0円となる)場合がほとんどのため、結果、どちらか一方が無償でペットを引き取ることになります。
そして、どちらがペットを引き取った方が良いかの判断については、離婚時の親権者の判断と近く、「主たる飼育者」「健康状態」「飼育補助者」といった要素で判断されます。
ペットは大切な家族の一員です。ペットを大切に思う気持ちは、離婚問題においても尊重されるべきです。ペットを飼われていて、離婚問題でお困りの方は、当事務所にお気軽に相談してください。
関連ページ
・【判例紹介】離婚後のペットの飼育費用:家賃と餌代の負担割合を定めた判例
参考文献
・堀龍兒・淵邊善彦・渋谷寛(2016).『ペットの法律相談』. 青林書院.
・松本哲泓(2019).『離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務-』.新日本法規出版.