はじめに:家族法改正の目的と施行時期
2024年5月、離婚後の親権や養育費に関する民法等の重要な改正法が成立しました(通称:家族法改正)。そして、この改正法は2026年4月1日に施行される予定です。この改正は、離婚を考えている方や、すでに離婚されている方にとって、大きな影響をもたらす内容となっています。そこで今回は、この家族法改正について、わかりやすく解説していきます。
なぜ今、家族法が見直されたのか
今回の家族法改正の最大の目的は、「父母が離婚後も適切な形でこどもの養育にかかわり、その責任を果たすことで、こどもの利益を確保する」ことにあります。つまり、離婚は夫婦関係の終わりであっても、親子関係は続くという考え方を法律に反映させたものです。
これまでの制度では、離婚後は父母のどちらか一方が親権者となる「単独親権」しか認められていませんでした。しかし、父母の双方が子どもの成長に関わるべきだという考え方が広がり、離婚後も共同で親権を持てる「共同親権制度」が導入されることになりました。
また、養育費の確保や親子交流の在り方についても、時代に合わせた見直しが行われています。
施行時期と世界的な流れ
この改正法は、2026年4月1日に施行される予定です。世界的に見ると、欧米諸国をはじめ多くの国々で離婚後の共同親権が認められており、離婚後に父母のいずれか一方のみが親権を持つという日本の制度はむしろ例外的でした(※1)。そのため、今回の改正は国際的な潮流に沿った「子どもの権利重視」の方向転換といえます。
一方で、DV(家庭内暴力)や虐待の懸念がある家庭への配慮も重視されており、「共同親権=原則」ではなく、個別事情に応じて柔軟に判断する新たな親権制度へと生まれ変わります。
※1
令和2年4月、法務省民事局発表の「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要)」によると、G20を含む海外24ヶ国のうち22ヶ国(インド及びトルコ以外)は共同親権が認められています。
改正の大きな柱「共同親権」とは?
これまでの単独親権との違い
これまでの民法では、離婚後の親権は父母のどちらか一方が持つ「単独親権」しか認められていませんでした。この制度では、親権を持たない親がこどもの養育や教育に関する重要な決定に関与することが法律上難しいという課題がありました。
一方、改正後の制度では、父母の協議によって「共同親権」または「単独親権」を選択できるようになります。なお、話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所が判断します(判断基準については後述します。)。
これにより、離婚後も父母が協力してこどもの養育に関わることが法的に可能となり、親子関係の継続をより強く支える仕組みが整えられました。
共同親権か単独親権かは、どうやって決まる?
まず原則として、父母が話し合い(協議)で共同親権にするか単独親権にするかを決めます。もし話し合いで結論が出ない場合には、家庭裁判所での調停や審判といった手続きで決めることになります。
また、裁判所が親権者を決める場合には、「こどもの利益」を最優先に考えて判断されます。具体的には、「父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情」を総合的に考慮して決定されます(改正民法第819条第7項)。ただし、次のような場合には、共同親権ではなく単独親権と定められることになります(改正民法第819条第7項第1号、第2号)。
- 父または母がこどもの心身に害を及ぼすおそれがあるとき
- DV(配偶者からの暴力)のおそれがあるとき
- その他、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
つまり、虐待やDVのリスクがある場合には、こどもの安全を守るために単独親権となるのです。
なお、改正前は離婚届を出す際に親権者を決めていなければ受理されませんでしたが、改正後は親権者指定の調停や審判を申し立てていれば、親権者が未定のままでも離婚届が受理されるようになります。
こども自身から親権者変更を請求することも可能に
離婚後の親権者は、こどもの利益のため必要があると認められる場合、家庭裁判所へ親権者の変更を請求することができます(改正民法第819条第6項)。改正前は「一方の親から他方の親へ」という変更しかできませんでしたが、改正後は以下のパターンが可能になります。
- 単独親権から共同親権への変更
- 共同親権から単独親権への変更
- 一方の親から他方の親への変更
そして、請求できる者も「子の親族」から「子又はその親族」と改正されました(改正民法第819条第6項)。たとえば、親権を持つ親に問題が生じた場合、こども自身が「他方の親と暮らしたい」と家庭裁判所に申し立てることも可能になります。
なお、すでに離婚して単独親権の定めをしている方については、改正法の施行によって自動的に共同親権に変更されるわけではありません。しかし、こども自身やその親族の請求により、単独親権から共同親権に変更される可能性はあります。
共同親権の場合、親権の行使はどうなる?
共同親権の場合、原則として親権は父母が共同で行使します。しかしながら、すべての事柄について常に父母が一緒に決めなければならないわけではありません。日常的な監護や教育に関する行為(※2)については、単独で親権を行使できます(改正民法第824条の2第2項)。また、こどもの利益のために急を要する事情がある場合にも、単独で親権を行使することが認められています(改正民法第824条の2第1項第3号)。
一方で、進学先の決定や転居、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、財産の管理(預金口座の開設等)など重要な事項については、父母が共同で決める必要があります。もし父母の意見が対立して決められない場合には、家庭裁判所に申し立てて、父母のどちらか一方を「親権行使者」に指定してもらうことができます。指定された親は、その事項について単独で親権を行使できるようになります(改正民法第824条の2第3項)。
※2:日常的な監護や教育に関する行為例
食事や服装の決定、短期間の観光目的での旅行、心身に重大な影響を与えない医療行為の決定、通常のワクチンの接種、習い事、高校生の放課後のアルバイトの許可など
養育費のルールも大きく変わります
今回の改正では、共同親権制度と並んで、養育費に関するルールも大幅に見直されました。これにより、養育費の支払いを受けやすくなることが期待されています。
取り決めがなくても発生する「法定養育費」の新設
これまで養育費は、父母間の合意や裁判所の決定があって初めて支払義務が具体化していましたが、改正後は、養育費の取り決めをしないまま離婚した場合でも、法律上当然に「法定養育費」を請求できる権利が発生するようになります(改正民法第766条の3)。
この法定養育費の金額は令和7年12月12日に法務省令が制定され、2026年の施行時点では、子1人につき月額2万円となりました(『養育費に関する法務省令の概要』より)。
ただし、支払う側の経済状況によっては、支払能力がないことや、支払うと生活が著しく困窮することを証明すれば、支払いを拒むことができます(改正民法第766条の3)。また、家庭裁判所の審判で養育費を定める際には、支払義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の一部免除や支払猶予などの措置を命じることもできます(改正民法第766条の3第3項)。
養育費の支払いを確保しやすくするための新制度
養育費の未払いを防ぐため、養育費や婚姻費用などの請求権に「一般先取特権」が付与されることになりました(改正民法第306条、第308条の2)。先取特権とは、債権者が他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。この制度により、債務名義(確定判決や調停調書など)がなくても、先取特権の存在を証する文書(当事者間で作成した合意書など私的な文書でも大丈夫です。)があれば、給与の差し押さえなどの手続きができるようになります。
ただし、先取特権が認められるのは「こどもの監護に要する費用として相当な額」の部分に限られます。そのため、婚姻費用のうち配偶者の生活費部分や、非常に高額な養育費については、相当な額を超える部分には先取特権は及びません。この先取特権の上限額は、法定養育費と同じく法務省令で、子1人につき月額8万円と定められました(『養育費に関する法務省令の概要』より)。
収入情報の開示と強制執行のワンストップ化
養育費の審判や調停、離婚訴訟における養育費の附帯処分において、家庭裁判所は必要があると認めるときは、当事者に対して収入や資産の状況に関する情報の開示を命じることができるようになりました(改正人事訴訟法第34条の3)。また、正当な理由なく情報を開示しない場合や、虚偽の情報を開示した場合には、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
さらに、養育費を請求するための民事執行手続では、地方裁判所に対する1回の申立てで、以下の一連の手続きを行うことができるようになります(改正民事訴訟法第167条の17)。
- ①財産開示手続
養育費の支払義務者が保有する財産を開示させる - ②情報提供命令
市区町村に対し、支払義務者の給与情報の提供を命じる - ③債権差押命令
判明した給与債権を差し押さえる
このワンストップ化により、養育費の回収手続きが大幅に簡便になることが期待されています。
親子交流(面会交流)のルール見直し
今回の改正では、離婚後の親子の交流に関するルールも見直されました。
「面会交流」から「親子交流」へ
これまで法律の条文上では明確な規定がありませんでしたが、「面会交流」という言葉が一般的に使われてきました。今回の改正で、これが「親子交流」という言葉で法律に明記されることになります(改正人事訴訟法第34条の4等)。
この変更は、単に親がこどもに「会う」だけでなく、電話やオンラインでのやり取りなど、多様な形で「共に時間を過ごし、関係を築く」という考え方を反映したものです。(他にも「面会」という言葉が地位の高い人との面会や病院での面会など、ややネガティブな印象があるという意見を受けていたことなども名称変更の要因の1つです。)
また、現在の実務で行われている「試行的面会交流」を制度化した「親子交流の試行的実施」という制度も新設されました。これは、裁判所が当事者に対して、親子交流を試しに実施してみることを促し、その結果を審判や調停に活かしていくというものです。
祖父母など親族との交流も可能に
これまで民法には、父母以外の親族(例えば祖父母など)とこどもとの交流に関する規定はありませんでした。しかし、今回の改正により、「子の利益のため特に必要がある場合」に、家庭裁判所が、祖父母などの親族とこどもとの交流についても定めることができるようになります(改正民法第766条の2)。これにより、こどもにとって大切な親族との関係を維持することが可能になります。
なお、この「父母以外の親族」は子の直系尊属(祖父母や曽祖父母など)と兄弟姉妹が対象で、それ以外の親族(おじ、おば、従兄弟など)については、過去に子を監護していたことがある場合に限るとされています。
その他の注目改正ポイント
共同親権や養育費の他にも、私たちの生活に関わる重要な改正点がいくつかあります。ここでは、特に知っておきたい3つのポイントをご紹介します。
財産分与の請求期間が5年に延長
離婚後、財産分与の協議がまとまらない場合、従来は2年以内に家庭裁判所へ審判を申し立てる必要がありました。
改正後は、この期間が5年に延長され(改正民法第768条)、これにより、離婚後にゆっくりと財産分与について考える時間的余裕ができることになります。
強度の精神病を理由とする離婚原因の削除
これまで民法では、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が離婚原因の一つとされていました(旧民法第770条第4号)。しかし、現代では精神疾患への理解が進み、差別的な規定と捉えられるようになったことから、この項目は削除されました。今後は、他の離婚原因と同様に、婚姻関係が破綻しているかどうかという実質的な観点から判断されることになります。
夫婦間契約の取消権の廃止
従来の民法には、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる」という規定がありました(旧民法第754条)。しかし、この規定は現代の夫婦関係の実態に合わないとして、今回の改正で削除されることになりました。これにより、夫婦間の契約もより安定したものとなります。
まとめ
今回の家族法改正は、離婚後の親子関係のあり方を大きく変える、非常に重要なものです。特に「共同親権」の導入や「養育費」に関する新ルールは、これから離婚を考えている方だけでなく、すでに離婚された方にとっても大きな影響があります。ただし、制度が大幅に改善された一方で、共同親権の運用や家庭裁判所の判断基準など、実際の運用が安定するまでには時間がかかると考えられます。そのため、離婚後の親権や養育費について不安がある場合は、早い段階で専門家に相談することが大切です。
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