【ゼロから学ぶ財産分与】 ~財産の持ち出しと使い込み~

コラム『【ゼロから学ぶ財産分与】 ~分与の基準~』で、
財産分与の基準時は、離婚時または別居(協力関係が失われた)時と解説しました。

では、離婚を切り出す前に一方が、財産を持ち出したり、ギャンブルなどで
財産を使い込んだりして、基準時の財産が不当に減少した場合はどうなるのでしょうか?

今回は、離婚・別居前の財産の移動や浪費された場合の財産分与について解説していきます。

別居時の財産の持ち出し

上記のとおり、別居時が財産分与の基準時になるので、別居の際に持ち出した財産は
使い道の合理性を考慮した上で財産分与の算定に含まれます
しかし、財産の持ち出された際に、気を付けなければならないことがあります。

財産の持ち出しは違法行為と判断されにくい

持ち出された側からすると、「自分の財産が盗まれた」と考えてしまうかもしれませんが、
『法は家庭に入らず』という考え方があり、実際に、刑法には親族間の窃盗などの罪を
免除する・親告罪とする条文があります。この親族に対しての特例を親族相盗例といいます。

そのため、配偶者による財産の持ち出しは被害者が告訴しない限り刑事事件にはなりませんし、
例え、被害者が告訴したとしても、よほど悪質でない限り不受理になると思っていた方が
いいでしょう。

また、民事(損害賠償請求)訴訟についても次のような判例があり、認められない場合が多いです。

【平成7年4月27日 東京高等裁判所(原審:平成4年8月26日 東京地方裁判所)】

別居に際しての持ち出された財産の帰属は、財産分与の際に決定するべきとして、
夫の損害賠償請求を棄却した。

財産を持ち出されても婚姻費用の減額できない

財産を持ち出された上に、婚姻費用も支払わなければならないとなると少し酷かと思いますが、
上記の判例のように、持ち出した財産については財産分与の際に決定すべきことで、
争いになれば長期になることが多く、生活に関わる婚姻費用迅速に決定する必要があるためです。

ただし、例外もあり、
妻が持ち出した財産を生活費に充てることを夫が容認していた事例で、
妻の婚姻費用請求の申し立てを却下したものがあります。
(平成16年5月31日 札幌高等裁判所)

保全処分を検討する必要がある

持ち出された財産は財産分与の際に決定するべきだからといって、何も対処しないでいると
財産の2分の1以上を使い込まれてしまい、財産分与の際に超過分を請求することに
なったとしても相手の資力が乏しいと回収が難しくなってしまいます。

そのため、財産を持ち出された場合、使い込まれないために保全処分を検討する必要があります。

保全処分をするためには、財産隠しをされる恐れがあることなど、保全の必要性
明らかにすることや、預貯金を仮差押えする場合には金融機関名支店名
といった対象財産に関する情報が必要になります。

また、申立人の収入にもよりますが、差押さえる財産の10~15%程度の金額を担保金として
納めなければなりません。

基準時前の贈与

基準時よりも前に共有財産から贈与した場合には、
その贈与の目的と時期などから判断されることになります。

例えば、夫婦の協力関係があった時期に、一方の親の援助として、もう一方の了承を
得た上で、贈与をしていた場合などは財産分与の対象とならないと考えられます

つまり

  • 贈与した時期が、基準時(離婚・別居時)よりもある程度昔であるか
  • 贈与は、夫婦の共有財産を減少させる目的ではなかったか

といった部分が判断基準となります。

後々に争いにならないためにも、夫婦の共有財産を第三者に贈与するときは
夫婦で話し合い、どういった理由でするのかを記録として残しておくことが大切です。

浪費による財産の減少

まず、婚姻期間中に一方が浪費した分を財産分与の算定に加えることは難しいでしょう。
なぜなら、その浪費ごとに「婚姻生活のためではない」「財産を減少させる目的だった」
ということを証明しなければならないからです。

浪費の使途を証明することが難しく、浪費を財産分与の算定に加えることができなければ、
もう一つの方法として、財産形成の寄与度を主張することが考えられます。

浪費を原因として財産分与の割合を2分の1から変更した判例として、
森公任弁護士・森元みのり弁護士 編著の書籍
『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』で紹介されている
平成28年3月 水戸家庭裁判所判決があります。

この判例は、

  • 夫婦ともに共働き(年収は夫が900万円~1,500万円、妻が830万円前後)
  • 夫は単身赴任で月20万円前後と賞与の一部を妻に送金していた
  • 財産分与の基準時の妻側の財産は1億円を超えており、夫側の財産はほとんどなく
    2人の財産の総額の1%程度しかなかった

という事例で、の寄与割合を3割の寄与割合を7割としました。

ただし、この判例は、妻の財産が高額であったことと、夫も高収入で
負担していた婚姻費用の額も通常の枠を超えるものではなかったにも関わらず、
財産分与の基準時には、ほとんど財産が残っていなかったという少し特殊なケースですので、
一方が浪費していたことによって財産分与の割合が2分の1から
簡単に変更されるという訳ではありません

まとめ

財産の使い込みや持ち出しを防ぐためには、婚姻時からお互いに財産、
預貯金の口座を把握しておくことが大切です。

もし、財産を持ち出されて別の口座に移された場合に仮差押えするためには
金融機関名支店名を探るところから始めなければならず、弁護士会照会などを
利用しなければ特定することは難しいでしょう。

「持ち出された財産を差し押さえたい」「財産形成の寄与を主張したい」など、
財産分与についてお困りでしたら、当事務所では初回相談料を無料
とさせていただいていますので、お気軽にご相談ください。

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