相手から「未婚」と騙されて、性的な関係を持ってしまった場合、貞操権侵害を理由に慰謝料請求ができる場合があります。
今回は、マッチングアプリや結婚相手紹介サイトを通して既婚男性と性的な関係を持ってしまった女性が損害賠償請求(慰謝料請求)訴訟を起こした裁判例をご紹介します。
※貞操権
誰と性的関係を持つかを自分の意思で決める権利です。
男性にも認められている権利ですが、今回は、紹介する裁判例やこれまで扱ってきた事案から女性側の視点で解説します。
不法行為の有無と慰謝料額について
不法行為の有無について
まず、今回紹介する裁判例では、「将来の結婚相手になら体を許していい(貞操権)」と考えている相手に対して、「結婚を考えている」と騙して性交渉をさせたかどうかで判断されます。
そして、今回紹介する裁判例の全てで、マッチングアプリや結婚相手紹介サイトの利用規約等に「18歳以上の独身者のみ利用可能」となっているにも関わらず、既婚男性が利用していた案件だったため、不法行為と認められました。
ここで注意をしておきたいのが、実際に会った時に、婚約指輪をしていた(跡があった)り、既婚者であると思われる発言があったばあいです。このような場合、慰謝料請求が認められないだけでなく、相手の配偶者から不貞慰謝料請求をされることも考えられます。
逆に、積極的に未婚であると思わせたり、結婚をほのめかす発言があればこちらが請求できる慰謝料額は上がる傾向にあります。
慰謝料額について
慰謝料額は、様々な事情を総合的に考慮して決定されます。私たちが担当した事案でも、高等裁判所の慰謝料額の判断理由に「個別性の極めて高いこの種の事案の判断において、他の裁判例と比較してその額を決めることは必ずしも合理的であるとはいえない。」と示されたので、あくまでも目安を知っていただき、具体的な請求金額などについては、一度弁護士に相談するようにしてください。
今回紹介する裁判例では次の事情が考慮の材料とされました。
- 妊娠(出産・中絶)
- 交際期間
- 原告(女性)の年齢
- 婚姻を約束していたか
- 被告(男性)の対応、交際の経緯
なお、出産したか中絶したかでの慰謝料金額の増減については、同じく私たちが担当した事案で「中絶は被控訴人(※女性)に対する大きな身体的侵襲を伴う上、胎児の生命を絶つものであって控訴人(※男性)が中絶を要求する権利を有するものではないことも併せ考慮すると、…中絶に応じず出産を選択したことをもって、被控訴人自身が損害を拡大させたとか損害額を減額させるべき過失があるなどと評価することはおおよそできない。」と判断されたので、基本的には金額に変動は発生しないと考えたほうがいいでしょう。
裁判例①【東京地方裁判所・令和元年8月23日】
- 認定された慰謝料額
200万円 - 妊娠(出産・中絶)
出産 - 交際期間
1年弱 - 原告(女性)の年齢
41歳 - 婚姻を約束していたか
「結婚式はハワイで挙げたいー」「結婚したらマンション買おうよ」「結婚したいなー」などのメッセージを送った。
婚約指輪を買う約束をした。
「(被告の)両親に、『今年結婚する』『今度(交際相手の原告を)連れて行く』と言った」と原告に告げた。 - 被告(男性)の対応、交際の経緯
出産直前まで既婚者であることを隠し続けていた。
出産からしばらくして養育費の支払いがなくなったため、認知及び養育費の支払いとDNA鑑定を求めたところ、DNA鑑定を行わずに認知すると回答したが、未だ(損害賠償請求訴訟判決時点)に認知をしていない。
裁判例②【東京地方裁判所・令和3年11月26日】
- 認定された慰謝料額
200万円 - 妊娠(出産・中絶)
出産 - 交際期間
1年弱 - 原告(女性)の年齢
40歳 - 婚姻を約束していたか
原告は、被告との将来の婚姻を期待して、…避妊具を使用しない性交渉にも応じていたものと認められる。 - 被告(男性)の対応、交際の経緯
妻との離婚を考えていたと主張するが、離婚協議が具体的に進んでいたなどの事情は見当たらない。
妊娠したことを受け入れ、出産に同意している。
妊娠発覚後も既婚者であることを告げず、原告や出産した子と共同生活できるかのような期待を持たせ続けた。
裁判例③【東京地方裁判所・令和4年3月4日】
- 認定された慰謝料額
10万円(別で名誉感情侵害での慰謝料10万円も認定) - 妊娠(出産・中絶)
なし - 交際期間
(交際再開後)2ヶ月 - 原告(女性)の年齢
37歳 - 婚姻を約束していたか
原告は、被告に対し、結婚を前提とした交際がしたい、子どもが欲しい旨を伝えたところ、被告は、結婚はすぐには考えられない旨を返答した。 - 被告(男性)の対応、交際の経緯
原告と被告との交際終了後に被告とBが内縁関係になったとは到底考えられず、遅くとも原告と被告とが交際を再開した…頃には、被告とBの関係は内縁状態に至っていたものと認められる。
手紙の中で「…内縁(妻)の事を心から愛していたにも関わらず。性欲を満たす為に12年間も俺に尽くした、内縁の(妻)を裏切った形になってしまった。」などと記載している。
裁判例④【東京地方裁判所・令和2年3月2日】
- 認定された慰謝料額
50万円 - 妊娠(出産・中絶)
なし - 交際期間
約4ヶ月 - 原告(女性)の年齢
39歳 - 婚姻を約束していたか
犬を苦手としており、二人で一緒に住むときには、原告が飼っている犬を実家に置いてきて欲しいことや、自分もいい年だし、原告との交際を遊びではなく、真剣に考えていると伝えた。 - 被告(男性)の対応、交際の経緯
慰謝料を請求されるなら、原告に対し、被告の妻から慰謝料請求をすることを考える旨の発言。
訴えの提起に際して原告訴訟代理人から現住所を明らかにするよう要求されたが、一切開示せず、裁判所から釈明を求められても、開示に全く応じない。
まとめ
マッチングアプリなどで出会った既婚者と性的関係を持ってしまった場合、貞操権の侵害として慰謝料請求ができる可能性があります。裁判例では、婚姻を約束されていたか、妊娠や出産の有無、交際期間などが慰謝料額の判断材料とされています。既婚者と性的関係を持ってしまうという事例は、マッチングアプリだけでなく、一般的な出会いでも起こり得る問題です。大切なのは、相手の誠実さを見極め、慎重に関係を進めることです。
このような事案でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。