【事例】再婚と養育費の減額 ~減額の始期~

前回、【養育費・婚姻費用の増減額事由】では、
主に養育費・婚姻費用の金額を取り決める際の増減額事由について解説しました。

では、取り決めてからしばらくして、減額事由が発生した場合はどうなるのでしょうか?
今回は、養育費の減額について事例と合わせて解説します。

養育費の増減額

もちろん、養育費の減額事由が発生したからといって、一方的に減額することはできません。
それは、養育費の増減額について民法では次のように定められているからです。

【民法第766条第1項】
父母が協議上の離婚をするときは、(中略)子の監護に要する費用(中略)は、
その協議で定める。
この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

【民法第766条第2項】
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
家庭裁判所が、同項の事項を定める。

【民法第766条第3項】
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、
その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

つまり、養育費を増減額するためには、【養育費・婚姻費用の増減額事由】の
【増額理由の一例 ※3】のように「改めて協議をして定める」もしくは、
家庭裁判所に、増減額する必要があると認められなければなりません。

事例の概要

 ①

・XとYが離婚した
・XとYの子どもA、B、Cの親権者はYとなった
・Xは子どもA、B、Cの養育費を支払っている

 ②

・離婚後、しばらくしてからYがZと再婚した
・Zは、Yとの結婚と同時にA、B、Cと養子縁組をした

 ③

・Yの再婚後、しばらくしてからXが再婚・養子縁組の事実を知り、
 養育費減額請求の申立てをした

Xは養育費を減額できるのか?

子どもが再婚相手と養子縁組をした場合

事例のように元配偶者が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組をした場合は
養育費の減額が認められるのかを考えていきましょう。

まずは、養子縁組をすることによって子どもと再婚相手との間に
どのような関係が生じるのか民法を確認していきます。

【民法第809条】
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。

【民法第818条第2項】
子が養子であるときは、養親の親権に服する。

【民法第820条】
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び
教育をする権利を有し、義務を負う。

【民法第877条第1項】
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

つまり、事例の場合、ZにA、B、Cを監護、扶養する義務が発生します。

ここで注意しなければいけないのが、
実親であるXのA、B、Cを扶養する義務が無くなるわけではありません
過去の審判例などから、子どもの扶養義務は養親が第1次的に負うことになるとされています。

【札幌家庭裁判所小樽支部 昭和46年11月11日】
親権者とならなかつた実親の他方の扶養義務が後退する

【長崎家庭裁判所 昭和51年9月30日】
養親が親としての本来の役割を果しているかぎり、実親の扶養義務は後退し、
養親が資力がない等の理由によつて充分に扶養義務を履行できないときに限つて、
実親(中略)は次順位で扶養義務(生活保持の義務)を負う

【神戸家庭裁判所姫路支部 平成12年9月4日】
未成熟の養子に対する養親の扶養義務親権者でない実親のそれに優先する

以上のことから、基本的にXの支払っている養育費の減額請求は認められると言っていいでしょう。
(Zに扶養義務を履行できない事情ある場合などを除く。)

子どもが再婚相手と養子縁組をしていない場合

では、子どもが再婚相手と養子縁組をしていない場合はどうなるのでしょうか?
上記のように、養子縁組をしていない再婚相手には、法的に子どもを監護、扶養する義務は
発生しません

つまり、原則として子どもが再婚相手と養子縁組をしていない場合は、
養育費の減額は認められません

しかし、元配偶者の再婚相手は子どもへの監護、扶養する義務が
ないといっても、元配偶者への扶助義務があります。

【民法第752条】
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

そこで、元配偶者は再婚相手の収入から所得の分配があるものとみなして
元配偶者の実収入と再婚相手からの所得分配を加算した金額から
養育費の額を算定するという考え方もあります。
(大津家庭裁判所 平成20年6月10日 審判 【養育費の増額を求めた事例】)

ただし、この考え方を用いて養育費の減額が認められた判例は見当たらないため
先ほど述べたように、養子縁組をしていない場合は、養育費の減額は認められないのが実状です。

いつから減額されるのか

それでは、養育費の減額が認められたとして、いつから減額されるのでしょうか?
もう一度、図と合わせて見ていきましょう。

  • ②Zが子どもと養子縁組をしたとき
  • ③養育費減額請求を申し立てたとき
  • ④養育費減額請求の調停が成立・審判が確定したとき

まず、【②Zが子どもと養子縁組をしたとき】ですが、
変更すべき事情が発生したとしても、そのことから直ちに
養育費の支払い金額に変更を生じさせるものではありません
養育費の支払い金額を新たに取り決めることで支払金額に変更が生じます

つまり、通常は【③養育費減額請求を申し立てたとき】
【④養育費減額請求の調停が成立・審判が確定したとき】のどちらかになります。

実務上では【③養育費減額請求を申し立てたとき】とする判断が多いようです。
しかし、裁判所は、個別具体的な事情から合理的な裁量により判断しますので、
必ずしも【③養育費減額請求を申し立てたとき】となるわけではありません。

今回の事例では、Xが早期解決を望んでいたこともあり、
Yが納得できる時期(養育費減額請求を申し立ててから2か月後)までの
養育費の支払いを提案し調停が成立しました。
(今回の事例は、養育費減額ではなく、養育費支払いの免除となりました。)

もちろん、妥協せずに【③養育費減額請求を申し立てたとき】と
主張することもできますが、審判となり、その結果、
【④養育費減額請求の審判が確定したとき】となってしまうと
養育費減額請求の申し立てをしてから審判確定までの期間を
余分に養育費を支払わなければならないリスクもあります。

まとめ

離婚後は、元配偶者とはあまり関わりを持たないことが一般的です。
そのため、再婚し再婚相手が子どもと養子縁組をしたという事実を知らないまま
養育費を支払い続けているということもありえます。
今回の事例では、Xが子どもの戸籍を取り寄せたことで発覚しました。

実務の多くは、【③養育費減額請求を申し立てたとき】が養育費減額の始期になります。
ですので、このような事実が発覚した場合には速やかに申し立てる方が良いでしょう。

養育費がどれだけ減額・免除されるのかは、子どもと養子縁組をした
元配偶者の再婚相手の収入なども関わってくるため複雑になります。

養育の減額・増額についてお困りでしたら、
当事務所では初回相談料を無料とさせていただいていますので、お気軽にご相談ください。

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